ちょっと奥さん、聞いてよ

日々の出来事を小説風に記録。社会の端っこで息をひそめる人間の物語。ここだけは自分が主役。

2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧

金のオノと良い匂いのワックス

髪を切るのってなんでこんなに大変なんだろう。 私は、口には出さず頭の中でこっそりとそう呟いた。 長さや色の指定をして、その後雑誌でまたイメージの確認をして、途中でまた長さの確認をされて…。 「これで良いですか?」なんて聞かれても何が良いかなん…

怪しいものではございません!

東京には『新宿の母』と呼ばれる占いの権化がいるように、こんな田舎にもその土地の母を名乗る占い師がいる。 一ヶ月ほど前、友人のミナミと酒を飲みながらそんな都市伝説で盛り上がっていた。 まだ意識がはっきりしているうちに確かめてみようと、その場で…

父の子が思うこと

ふとカレンダーの月を数えてみると、いつの間にか実家に戻って1年半が経っていた。 10年ぶりに実家に住み始めたのだから最初こそ戸惑いはあったものの、今ではほとんどのことに居心地の良さを感じている。 しかし、いや、だからと言うべきだろうか。 ほとん…

選ばれなかったチョコレート

今週のお題「チョコレート」 ────────────────── 「3、2、1、、、しゅーりょー。」 時計の針がちょうど0時を指す瞬間に合わせて、マガルは一人呟いた。 2月14日が終わり、15日がやってきた。 朝になれば仕事なのだから、早く寝なければいけない。 頭ではそ…

花井さんの恩返し

「マガル君、ちょっとばあちゃんの話聞いてよ。」 「ん、どうしたの?」 「今日ね昼間に病院行ってきたの。そしたら、ほら、あの畑の向かいに住んでる人なんて言ったっけ。」 「河合さんのこと?」 「あぁそうそう!その花井さんがね。」 「ばあちゃん、河合…

俺の人生から”俺”が消えるとき

「だから何で俺がこんな面倒な思いをしなきゃいけないんだよ。自分の生き方くらい自分で選びたいわ。」 マガルはビールを呷(あお)りながら心の膿を少しだけ吐き出した。 既に何杯飲んだか分からない程酔いが回っているが、それでも膿を出し切るにはまだま…

気分

嫌な気分の時は世の中の全てが嫌に見えるし、無意識に"嫌なこと"を探して落ち込もうとしてしまう。 良くないことだと分かりつつも、今日はそんな日。 せめて少しでも嫌な気分を発散させたくて、ここに吐き出す。

その見た目なら美味くあれ

午前5時。祝日ということもあって町はまだ眠っているが、そんな中一軒だけ、明かりが灯っている。 家の中を覗くと男が一人、台所に立っている。 この男、名をカドヲマガルという。 なにやら熱心に携帯を見ていたかと思うと、やがて「よし」と小さくつぶやい…

まだ日が昇る前だというのに地面が、空が、町を明るくしている。 いつもならもう少し暗い気分のはずなのに、景色の白さに引っ張られたからか今日は気分がいい。 町が白で塗りつぶされるというよりも、白いキャンバスに少しだけ町が描かれているような、知ら…

ポイズンピープル

もう納期は何日も前なのに、K社が一向に成果物を送ってこない。 ふとした瞬間にそのことを思い出し、沸々と苛立ちが込み上げてきた。 先週電話した時には「月曜日には送ります」と言っていた。 それなのに、壁に掛けられた時計は本日2回目の4時を示している…

あなたのそばがいい

そばが食べたい、というよりもそばを作りたい。 多分感覚的にはこっちの方が正しいと思う。 そう思うと今すぐにでも作りたくなってきた。 パソコンを立ち上げて蕎麦打ちの道具を調べると、変な形の包丁やお盆みたいな器、長い棒などいろいろなものが必要だと…

1週間頑張ったで賞 受賞

冷たい風に身をすくめながら立っていると、勢いよく扉が開き和服の女性が出てきた。 「すみません、このドア手動なんですよ。」 なるほど、高いお店はどこも自動ドアだと思っていたが、どうもそうではないらしい。 一向に開く気配のなかったドアに「もしかし…

あなた、過去に何かあったでしょ?

ようやく仕事がひと段落してソファに座ると、途端に体から疲れが湧き出てきて、それが一気に重力を得て体にのしかかってきた。 僕が思っている以上に僕の体は疲れているらしい。 トイレに行きたい気もするけど、カーペットが足を放そうとしないので歩くこと…

見えない壁

就業時間を超えても尚仕事を続けるマガルに、荷物を抱えた男が声をかけている。 「マガルさんまだやっていくんですか?お疲れ様です。」 マガルは自分が話しかけられるとは思っていなかったため、一瞬反応が遅れてしまう。 「あ、ありがとうございます。もう…

ココロカクテル

家に帰り胸を開くと、体の中から一つずつ異物を取り出していく。 昼頃に仕事が捗らずイライラしている自覚はあって、体から出した手を見ると、やっぱり『怒り』と書かれた容器は8割ほどにまで満たされていた。 その代わりに、朝新品に入れ替えた『喜び』はす…