ちょっと奥さん、聞いてよ

日々の出来事を小説風に記録。社会の端っこで息をひそめる人間の物語。ここだけは自分が主役。

ポイズンピープル

もう納期は何日も前なのに、K社が一向に成果物を送ってこない。

ふとした瞬間にそのことを思い出し、沸々と苛立ちが込み上げてきた。

先週電話した時には「月曜日には送ります」と言っていた。

 

それなのに、壁に掛けられた時計は本日2回目の4時を示している。

今日も送らない気か。

怒りが熱を持っているうちに携帯を手に取り、勢いに身を任せて電話をかける。

プルルル、プルルル、プル「…はい、もしもし」

あ、でた。

 

「お世話になってます、カドヲですけどお時間よろしいですか?」

 

本音を言えば悪態の一つでもついて、一体いつになったら資料を送るのかと問い詰めたい。

でもいざ対面すると、といっても電話越しだけど、怒りが体の奥の見えない暗闇に引っ込んでしまった。

 

「あの、この前お願いした資料ですけど進捗いかがですか?」

 

できるだけ相手を怒らせないように、でもこちらの真剣さは伝わってほしくて、努めて声のトーンを低くして問いかける。

 

「あーご連絡できずすみません。部下が作っていて今日確認したんですけどね、資料が全然できてないんですよ。僕の思っているのとまったく違いました。だからもう自分でやることにしました。そんなわけであと2,3日待ってもらえますか?」

 

なんだこいつ。

さっき引っ込んだばかりの怒りが、今度は体中から染み出してくる。

お前の会社の中で成果物の認識が違っているのは、部下のせいじゃなくてお前の指示が悪いからじゃないのか。

そもそも納期はとっくに過ぎているのに、今日確認したってどういうことだ。

 

心の中では言いたいことが言えるのに、どうしても喉元まで来て引き返してしまう。

 

「そうですか、わかりました。では水曜日にはお送りいただくようお願いします。」

 

「もちろんですよ、わかりました!じゃあ水曜日に送りますね。」

 

それでは、という声の後すぐに電話の切れる音が聞こえ、あとはずっと機械音が耳元に響くだけだった。

耳障りな音だ。

電話の内容を思い返し、心の中で言いたかった悪態を一つずつ呟いていく。

 

いっそ私の心が透けてくれると、今より少し生きやすくなるのかもしれない。

 

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