夜食
半分ほど資料を作り終えたところで、プツンと集中の糸が切れる音がした。
頭の中が急に散らかりだして、考え事がうまくまとまらない。
考えているうちに何を考えていたのか忘れてしまう。
深夜まで仕事をしていると、突発的にこういう状態に陥ることがある。
男は手のひらを上に向けて大きく伸びをする。
同時にあくびがでてしまい、突如猛烈な睡魔が襲ってきた。
少し寝ようかな。
いや、今寝ると少しのつもりが朝になってしまう。
なんとしても今日仕上げなければいけない。
男はおもむろに立ち上がりキッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けて食べ物を探してみるが、酒と肴が大半を占めており、あとは使いかけの野菜ばかりですぐに食べられるようなものは入っていなかった。
一通り冷蔵庫の中身をチェックした後、男はネギと卵、うどんを取り出す。
男には”夜食と言えばうどん”という固定観念があった。
眠たい体を壁で支えながら、鍋の中にうどんを入れてほぐしていく。
ほぐれてきたことを確認するとうどんを器に移し、茹で汁にめんつゆを入れる。
スプーンでつゆをすくい、そっと口に運ぶ。
男は小さく二回頷くと、少しでも美味しく見えるように片栗粉と溶き卵を鍋に加えていく。
出来上がったつゆを器に入れ、ネギをのせれば完成だ。
男がイメージした通りの夜食が完成した。
市販のつゆを薄めただけにも関わらず、深夜という状況が加わることで途端に美味しく感じられた。
少し濃いめに作ったつゆは喉を過ぎると体の内側を急激に温めていく。
食べ終わるころには男の額は汗ばんでいた。
つゆまで飲み干してきれいになった器をキッチンへ戻し、机に向かいなおす。
もうひと踏ん張りだ。
男は自分に言い聞かせて再び資料を作り始めた。