ちょっと奥さん、聞いてよ

日々の出来事を小説風に記録。社会の端っこで息をひそめる人間の物語。ここだけは自分が主役。

選ばれなかったチョコレート

今週のお題「チョコレート」

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「3、2、1、、、しゅーりょー。」

 

時計の針がちょうど0時を指す瞬間に合わせて、マガルは一人呟いた。

2月14日が終わり、15日がやってきた。

 

朝になれば仕事なのだから、早く寝なければいけない。

頭ではそう理解しているものの、一種の使命感に駆られてコートを着込み外へ飛び出す。

もともと人気(ひとけ)のない町だが、ほとんどの家の明かりが消えている分より一層寂しさが漂っている。

時折通る車が一瞬だけ静寂を壊して去っていく。

 

10分ほど歩くと、コンビニに着いた。

寝静まった町など意にも介さず強く光り続け、月明かりをかき消して激しく自己主張をしている。

眩しさから眉間にしわを寄せながらマガルが店内に入ると、「いらっしゃいませー!」と明るい声をかけられた。

声の方を見ると40代ほどの女性が、こちらに目を向けることなくレジでタバコの入れ替えをしていた。

 

一瞬寂しさが込み上げてきて、お疲れ様と声をかけそうになる。

 

すかさず今の自分を客観的にとらえて、何とか思いとどまることができた。

バレンタインが終わった瞬間に、一人で大量のチョコを買いに来る客を世間はどういう風に見るのだろう。

答えは分からないが、良い結果にはならないとは何となく感じることができた。

 

この行動にどんな意味があるかと聞かれると、自分でも説明することができない。

でも、バレンタインに選ばれなかったチョコのことを思うと、なぜか悲しい気持ちになる。

誰かから誰かへ愛を伝えるために使われるはずなのに、その機会を失ってしまったチョコたち。

もしもチョコに感情があるのなら、この瞬間はきっと耐え難いものだろう。

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