ちょっと奥さん、聞いてよ

日々の出来事を小説風に記録。社会の端っこで息をひそめる人間の物語。ここだけは自分が主役。

怪しいものではございません!

東京には『新宿の母』と呼ばれる占いの権化がいるように、こんな田舎にもその土地の母を名乗る占い師がいる。

一ヶ月ほど前、友人のミナミと酒を飲みながらそんな都市伝説で盛り上がっていた。

まだ意識がはっきりしているうちに確かめてみようと、その場でお互いにスマホで調べることにした。

しかしいざ調べてみると、存在をほのめかすような情報は出ているものの、肝心の住所や連絡先が載っていない。

分かったのはアパートの一室でやっているということと、その他の情報は何も開示していないということだけだった。

「占ってもらった」という情報はあるが、それ以上の話がなく、蜃気楼を追っているようだった。

これでは埒が明かない。

私と同じタイミングでミナミもそう感じたらしい。

2人がだした結論は「探しに行く」だった。

 

そして今日、私とミナミは母なる存在を探すべく行動する。

田舎からさらに田舎へ向けて車で走ること約1時間、目的の場所に到着した。

と言っても、住所が分からないためあくまで”ここら辺”というような場所だ。

住宅街ではあるものの人はほとんどおらず、まるで古びた模型が建ち並んでいるような感覚になる。

核心的な情報はないまでも、何人かがネットで「コンビニの裏あたりにあるアパート」と言っていた。

そこまで言うなら住所を言ってしまえばいいのに、と文句を言いつつも、その胡散臭さが楽しみの肥やしになっていた。

 

とりあえずコンビニに車を止めて、裏側へ回ってみる。

裏側には廃墟と言われても納得できるようなアパートがいくつか建ち並んでいる。

相変わらず人の気配はほとんど感じられない。

 

「ミナミ、占い師ってきっとお化けの出そうなボロいアパートに住んでるよな?」

 

「うーん、そうとも限らないんじゃない?有名な占い師なら儲かってるだろうし、向こうにある綺麗なマンションに引っ越してるかも。」

 

ミナミがアパートのさらに奥にそびえるマンション群を指さす。

なるほど、確かにその考えもあり得る。

ミナミの考えに納得しつつも、手掛かりのない今の状態ではネットからの数少ない情報を信じるのが最善な気がする。

 

「じゃあとりあえずここら辺のアパートを見て回って、それからマンションの方に行ってみよっか。占い師ですって看板は出てないだろうし…それっぽい雰囲気のモノを探してみるか。」

 

「えっと、例えば入り口の前に水晶が置いてある…とか?」

 

「そうそう。あと干してあるタオルの柄が六芒星とか。」

 

何もすがり付くものがなかったので、どこまでが冗談でどこまでが本気かお互い分からないまま、話は進んでいく。

結局、お互いに占い師に対して違う偏見を持つ二人は、話し合いの末に水晶・六芒星柄の何か・紫色を多くまとう人・お札が貼ってある軽自動車を探すことにした。

本物の占い師がどんな格好をしているのかは知らないが、この条件に当てはまる人が占い師じゃない訳ないだろう、という逆説的な考えだ。

 

時間短縮のために担当分けをすることになり、私はベランダを観察し、ミナミが玄関を観察しながらアパートの間を縫っていく。

10分ほど探し回っていると、ある一室のベランダに、紫色の背景にアナと雪の女王が描かれたタオルが干されているのを見つけた。

これはもしやと思いミナミを小突く。

 

「ミナミ、あそこのベランダ見て。紫色のタオルだ。アナと雪の女王って確か魔女も出るよな?あれはもしかして、占い師という看板を掲げない代わりのヒントじゃないかな。私はここにいますよっていうメッセージなんじゃ」

 

「マガル、それは絶対違うから次を探そう。」

 

最後まで言い終える前にミナミに一蹴されてしまった。

どうやら、占い師以外にも紫色を身に着ける人間はいるらしい。

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