内気な青春 2
前の日記の続き。
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試合当日、空は気持ちのいい晴れ方をしていた。
時折、グラウンドには緑に色付きだした木々を揺らしながら風が舞い込み、小さな砂埃を上げている。
あたたかな太陽の匂い、スパイクが固い地面をこする音、所々石灰の山ができあがった白線。
どこをとってもありふれた日常だった。
ただ、マガルだけは日常からはみ出していた。
グラウンドの端にある手洗い場に腰掛け、蛇口から一定のリズムで出続ける水が足の甲を伝って紫色の足首にまとわりつく様子をただ茫然と眺めていた。
試合開始のホイッスルから10分ほどたち、ようやく皆が集中しだしたころに、マガルは怪我をした。
彼のチームメイト曰く、混戦の中で足を踏み込んだ先にボールが転がり込み、それを避けようとして転倒したらしい。
マガル自身はその情景を覚えておらず、足元から聞こえた「ポキッ」という高い音だけがいつまでも耳に残っていた。
経験はないがマガルは何となく骨折だと思っていた。
だから、彼の母親の車ですぐさま病院に向かい、改めて骨折と宣告された時もやっぱりなという言葉が心に浮かんだ。
マガルは自分の足首を見ながら「これでも骨折しているのか」と考えた。
アニメや漫画のように足首が明後日の方向を向いているわけでもなく、ただジンジンと鈍い痛みだけが繰り返されていた。
「先生、いつ治るんですか?」
質問をしながら、マガルは県大会までの日数を逆算していた。
5日ほど休んで練習を再開すれば、2週間後の大会には十分間に合うことができる。
ところが医者の言葉は、予想だにしないものだった。
「完全に骨が治るのは1か月後かな。筋力はその間に低下しているから、ちゃんと走れるようになるのは2か月後くらいだね。」
慰めも、労りも、何も感じられない、一切の感情を排除した口調で医者はそう説明した。
頭の中で先程の計算に調整を加えようと試みる。
しかしどう調整しても試合の日と復帰できる日が噛み合うことがなく、そうすると段々2か月という言葉が心臓に重くのしかかり、体全体が地面に沈むような感覚に陥った。
口を開けてもうまく言葉がでてこなくて、代わりに涙があふれてくる。
眩しすぎるライトに苛立ちを感じ、呼吸に合わせてキィキィと喚くイスに吐き気を感じた。
チームの中で誰よりも練習をしていた。
決して真面目ではなかったかもしれないが、それでも一番勝つために行動していたのは自分だ。
それなのに、なんで、俺なのか。
最後の、大会なのに。
途切れ途切れの言葉がマガルの口から漏れ出し、地に落ちていく。
涙は止まらず、小さな部屋で彼は泣き続けていた。
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眠たいから続きはまた次回。