ちょっと奥さん、聞いてよ

日々の出来事を小説風に記録。社会の端っこで息をひそめる人間の物語。ここだけは自分が主役。

怒る女と食う男

今日の小説風日記。

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1月26日午後8時20分。

とある田舎では雨が降っていて、その田舎のとある中華料理店では1組の男女が向かい合って話し込んでいた。

男の名はカドヲマガル。そして女の名はスズキサヤカという。

この男、人見知りで神経質で臆病という会話に不利な素質を存分に持ち合わせた人物である。

そしてそのせいで、こうしてラーメンを食べる間もなく怒られているのである。

 

「いつも仕事が忙しいって言うけど、マガルは自分で忙しくしてるの分かってる?無駄に他の人の仕事手伝ったり、誰かに頼めばいいことまで自分でやってるからいつも忙しくなるんだよ。」

 

「うん、そうだね。それは分かってるんだけど…。でも誰かに仕事を頼めば、その人は自分の時間を割いて僕の仕事をやるわけでしょ。それってすごく申し訳ないじゃん。」

 

「まぁそれができないから苦しんでるんだろうけど、本当大変な性格だね。私はマガルがそれで楽しく過ごせるのなら良いんだけどね。」

 

「楽しく過ごせてはいないかなぁ。」

 

ぽつりと呟きながらマガルは一口分のラーメンを箸でつまみ、レンゲの上にのせる。

レンゲの上でネギとメンマを器用に盛り付け、ミニラーメンを作り口に運ぼうとする。

 

「一回誰かに仕事手伝ってもらえばいいじゃん。普段喋りかけてこない人から頼られると、きっと嬉しいんじゃないかな。」

 

「普段喋りかけてこない人から頼られたら、こいつ自分が困った時だけ話しかけてくるなって思われない?」

 

一旦おろしたレンゲを再び口元まで上げる。

 

「そうやってネガティブに考えすぎるの良くないよ。マガルが誰かに頼られた時、嫌な気分になる?」

 

「いや僕はならないけど、僕にとって嬉しいことが相手にとって嬉しいこととは限らないじゃん。だから世の中に”ありがた迷惑”って言葉があるんじゃん。」

 

マガルは三度、レンゲを口へ運ぼうとする。

 

「本当ああ言えばこう言うね。その憎たらしさを会社で少しでも発揮できれば多少生きやすくなるんじゃないの。」

 

ようやく口の中へ到達したミニラーメンは傷ついたマガルの心に癒しを与えた。

 

「まぁとりあえず頑張るよ。仕事落ち着いたらまたご飯行こう。」

 

「だから仕事が落ち着くことなんてないでしょって言ってんの。嫌でも無理でもとりあえず動いてみた方がいいよ。」

 

マガルはサヤカの言うことが正論だということを知っていたが、そのうえでできない自分を認めたくなくて、必死で言い訳を並べていた。

しかし確かに、何も行動しないうちから出来ないと言い続けるのは間違っているのかもしれない。

 

「ん、ほどほどに頑張ってみる。」

 

軽い調子で返事をしたが、言葉とは裏腹にマガルは自分を変えてみようと決心をしていた。

サヤカにそれを伝えることが何となく癪に感じ、本人には悟られないように、しかし心の内では明日から積極的に人とかかわる努力をしようと密かに燃えていた。

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