ちょっと奥さん、聞いてよ

日々の出来事を小説風に記録。社会の端っこで息をひそめる人間の物語。ここだけは自分が主役。

すみっこのひとりごと

自席を立つと入り口のところで談笑をしている集団がいた。

何人かは壁にもたれ、また何人かはコーヒーを片手に笑いあっている。

マガルは一歩踏み出して輪の中に入ろうとするも、そのまま集団を通り過ぎてトイレに向かう。

コーヒーの香りがマスクをすり抜け、鼻の奥に残っている。

今日だけで何回この経験をしたのだろうか。

マガルは何度も会話のチャンスを窺っては、あと一歩の勇気が出せず話しかけられずにいた。

 

昨日の教訓を活かし人と関わろうとするも、どうにも輪への入り方が分からない。

自分が行くと周りが気を使ってしまうのではないかと考え、一言目を発することができない。

次第にマガルは自分には向いていないと悟り、自らを正当化するための言い訳を考えるようになった。

 

特に話したいことがあるわけじゃないし。

会話するよりも仕事進める方が優先だから。

私のことをよく知ってくれてないから、会話が合わない。

 

言い訳を並べるうちにマガルは、ある一つのことに気が付いた。

一体、”本当の私”とはどこにあるのだろう。

f:id:Kadowo_Magaru:20210127232835j:plain


にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ
にほんブログ村