内気な青春 もう一つのお話2
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ぼんやりと目を開けると、母親の姿が目に入った。
「あ、おはよう。着替え持ってきたから置いとくね。足の具合はどう?」
「ん、大丈夫。」
短い会話の後、マガルは寝る前の行動を思い出してハッとする。
急いで棚を確認すると、引き出しは閉まったまま、特に触った形跡もないように思えた。
とりあえずバレてはいないことが分かり、ほっと胸をなでおろす。
「マガル寝てたからね、ご飯まだ食べてないでしょ。看護婦さんがそこに置いてくれたからちゃんと食べなさいよ。」
そういうと母親は荷物をまとめ、病室を後にした。
時刻は19時20分。
マガルは時計を見つめて、まだまだ夜が長いことを確認する。
とりあえず食器を片付けてもらわなければ、いつ看護婦が入ってくるか分からない。
病院の食事を胃に流しいれ、それから菓子パンを2つ食べたところでようやく満腹を感じられるようになった。
これで食器を片付けてもらえば、自分だけの時間だ。
いよいよ、お楽しみだ。
食器をベッドテーブルの脇にずらしながら、マガルはもう一度時計に目を向ける。
19時40分。
恐らく確実に誰も入ってこなくなるのは消灯してからだろう。
24時にこっそり電気をつけて棚からふたりエッチを読もう。
成功のためには夜中にしっかりと起きていなければいけない訳で、そのためには今のうちに少し寝ておいた方がいいかもしれない。
頭の中で計画を組み立てていく。
アラームを23時に設定し終えると、マガルはもう一度布団をかぶり目を瞑る。
高揚する気持ちがゆっくりと薄れていき、やがてプツンと意識が切れた。
次にマガルが目を開けた時、カーテンの奥から明るい光が漏れていた。
瞬時に事態を察知し時計に目を向けると、針は7時27分を指していた。
やってしまった。
マガルは大きくため息を吐き肩を落とす。
アラームを確認するとしっかりセットはされていたので、どうやら無意識に止めてしまったようだ。
こんなことなら寝る前に見ておくべきだったと、マガルは激しく後悔をした。
やがて看護婦がやってきて朝食を運び入れてくれた。
1日中ベッドで過ごそうが、大人の階段を上りそびれようが、それでも腹が減る。
味が薄くて決して美味しくはないが、それでも空腹を満たすためには必要だ。
ご飯を食べてはため息をつき、みそ汁を飲んでは肩を落とし、何をするにしてもマガルには後悔が付きまとっていた。
それでも根が単純なマガルは、食事を食べ終えると満腹の幸福感により多少気を取り戻しつつあった。
終わってしまったものは仕方ない。
それに入院生活は終わりではない。
まだ続くのだから今夜ふたりエッチを見よう。
昨日の失敗を前向きにとらえて自分を元気づける。
本当は今すぐにでも棚から取り出して見たいのだが、まだ皆が通学しているような時間である。
こんな時間に見るのは男としてマナーが悪いのではないか、と考えて決行はやはり昨晩同様の24時に行うことにする。
初めての入院生活によって、マガルは子供ながらにマナーを意識する紳士へと成長しつつあった。
そして今晩ふたりエッチを読むことで、大人な紳士へと変貌を遂げるだろう。
昨日抱いていた期待が再燃し、ようやくまたやる気が出てきた。
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