ちょっと奥さん、聞いてよ

日々の出来事を小説風に記録。社会の端っこで息をひそめる人間の物語。ここだけは自分が主役。

一人愛

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▼今日の小説風日記▼

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昼休憩が終わりパソコンに向かうも、マガルの目には涙があふれ時折デスクに零れ落ちていた。

キーボードから手を放しティッシュを取ろうとするも、さっき使い切ったことを思い出し手を戻す。

マガルの足元にあるごみ箱には、ティッシュが盛られている。

袖で涙をぬぐいながら、マガルは小さくつぶやいた。

 

「良い映画だったな。」

 

マガルには在宅ワークの時だけの楽しみがある。

昼休みに映画を見ることだ。

もちろん昼休みの間だけなのでどう頑張っても一日一時間だけで、就業時間には絶対に見ない。

当然一時間では見終われない映画の方が多く2、3日かけて一本の映画を見ることがざらにある。

 

今日、マガルは『今日も嫌がらせ弁当』という映画の後半部分を見ていた。

シングルマザーの女性が、ろくに口をきいてくれない反抗期の娘に対してキャラ弁を作り嫌がらせを行う。しかしそれは次第に『口にできないことを伝えられる』という別の意味を持ち始める。お互いのことをどれだけ疎ましく思っても、弁当を通して、それ以上に愛していることを伝え合う、という映画だ。

 

心温まるストーリーが展開されるその映画では、何度か”泣かし所”があり、マガルはもれなく全ての泣かし所で号泣していた。

 

作中では反抗期の娘に対する母親の接し方にコミカルと真剣さの両面があり、そのひたむきな姿勢に感情移入し、マガルはなかなか心を開かない娘にもどかしさを感じていた。

そして見終わったころには涙を流しつつも心に温かく柔らかな気持ちが芽生えていた。

きっとこれは、母性本能というやつだろう。

マガルにとってこの暖かさは初めて経験するもので、どういうものなのか分かっていなかったが、何となく母性本能だという気がしていた。

また、そう考えると妙にしっくりくる自分がいた。

 

その日の就業後、まだ胸の中に微かな母性本能を感じていたマガルは急いで台所へと駆け出す。

普段なら酒のつまみを作るだけなのだが、家の食材を全て使って古き良き日本の食卓を作り上げていく。

母親役を演じた篠原涼子が寝る間を惜しんで作ったように、マガルもまた丁寧に夕食を作っていく。

そして娘役を演じる芳根京子が嬉しそうに食べたように、マガルもまた嬉しそうに夕食を平らげる。

 

母性本能を一人で完結させたマガルは、どこか誇らしげな表情をしていた。

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