ちょっと奥さん、聞いてよ

日々の出来事を小説風に記録。社会の端っこで息をひそめる人間の物語。ここだけは自分が主役。

あなた、過去に何かあったでしょ?

ようやく仕事がひと段落してソファに座ると、途端に体から疲れが湧き出てきて、それが一気に重力を得て体にのしかかってきた。

僕が思っている以上に僕の体は疲れているらしい。

トイレに行きたい気もするけど、カーペットが足を放そうとしないので歩くことができない。

かろうじて腕は動かすことができて、仕方がないから拳を局部に押し付けて尿意を紛らわすことにした。

もう片方の手でリモコンを取り、テレビの電源をつける。

特に見たい番組もないからザッピングしていると、芸能人が占い師らしき人のお告げを聞くという企画が放送されていた。

 

「あなたはね、自分の中に『ここだけは譲れない』という芯のようなものがある。そしてそこに他人が立ち入ることを嫌っているわ。」

 

「え、すごい!当たっています!」

 

名前は知らないが何度かテレビで見たことのある俳優だ。

のけぞりながら大きく頷くリアクションは嘘か本当か分からないけど、もしも普段からこんな感じならとても疲れそうな人生だ。

 

「それとあなたの過去の話になるけど、中学生の時に何に対しても面倒くさいと思うときなかった?やる気が出ないというか何に対しても嫌悪感があるというか…。」

 

「ありましたよ中学一年の時に!中一の時には何もしたくないって思うときがあって、本当何をしようとしてもめんどくさがってたんですよ!」

 

テレビに映る俳優は占い師の問いかけ一つ一つに大きなリアクションを取り、目を見開き声を荒げている。

この人たちは一体何をしているんだろう。

それなりの年数生きていれば自分の価値観が確立されて『ここだけは譲れない』と思う部分がでてくるのは当たり前じゃないのか。

中学生の時に面倒くさいと思うことがあるのは誰もが通る道だろう。

というか、僕の場合は中学生に限らず毎年毎年面倒くさいと思う瞬間は必ずあるけど、もしかしてそれって僕だけなのか。

この俳優は中一の時しか面倒くさいと思ったことがなくて、だからそんな昔の『面倒くさいエピソード』を覚えているのかな。

 

腑に落ちないままテレビの音量を上げて、飲み物を取るために冷蔵庫を開ける。

 

「あ、トイレ行きたかったんだ。」

 

お茶を取り出したときに、さっきまで我慢していたことを思い出した。

僕はつい2,3分前の面倒くさいエピソードも忘れてしまうくらいに毎日たくさんのことに煩わしさを感じている。

もしも行動力を数値化できるようになったら、僕と俳優にはどれほどの差があるのだろう。

 

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