ちょっと奥さん、聞いてよ

日々の出来事を小説風に記録。社会の端っこで息をひそめる人間の物語。ここだけは自分が主役。

悪くない日の夜の気分

風呂上りに自室へ戻るマガルの足取りは、いつもよりも軽やかで弾むように歩いていた。

いつもより少しだけ鼻の穴が広がり、意気揚々としている。

 

何か特別な良いことがあったというよりは、何も悪いことがなかったという言葉が一番ピッタリくる表現だと思う。

今日は今年初めて一度も仕事をしなかった日で、読みたかった本をたくさん読めた日で、好きな友達とごはんに行けた日で、一般的に見れば普通なのかもしれないけど、小さな幸せの一つ一つをマガルは噛み締めていた。

 

コップにビールを注ぎながらその音を楽しむ。

コッコッコッと小気味いい音を立ててコップに金色が満たされていく。

コップの中で液体は金色と白色の二層に分かれていて、段々と白色が侵食し始める。

ここだ、というところで注ぐ手を止めると、白色の勢いが弱まり、続いて泡のはじける音が耳をなでてくる。

マガルはまだ白色の泡が勢力を保っているうちに口元へ運び込む。

ぐっと勢いをつけて飲み込むと、喉が一気に熱を持ち、次第に胃を冷やしていく。

昔祖父から「ビールは喉で飲むもんだ」と言われていたが、当時は意味が分からずただ頷くだけだった。

今その感覚を理解できていることと、それを楽しめている自分がいるということは少なからず大人になれているということだろうか。

 

マガルにとって今日は『普通』を楽しめる一日だった。

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