ちょっと奥さん、聞いてよ

日々の出来事を小説風に記録。社会の端っこで息をひそめる人間の物語。ここだけは自分が主役。

その見た目なら美味くあれ

午前5時。祝日ということもあって町はまだ眠っているが、そんな中一軒だけ、明かりが灯っている。

家の中を覗くと男が一人、台所に立っている。

この男、名をカドヲマガルという。

 

なにやら熱心に携帯を見ていたかと思うと、やがて「よし」と小さくつぶやいた。

『そば粉』と書かれた袋を破り、赤い器の中に中身を広げていく。

ここで急に勢いが止まり、器に中身を出し終えると、携帯と器を交互に見比べる。

そして盛られた粉を少し触ったかと思うとまた携帯を見つめる。

 

マガルは何度も携帯と手元を見比べながら、慎重に手を進めていく。

やがて、10分の動画を1時間かけて見終えたころ、マガルの手元には”それらしいもの”が並んでいた。

 

マガルは顔をほころばせながら、それを沸騰した鍋の中に入れていく。

ザルに移し、冷水につけ、器に盛り、それを口に運ぶ。

 

ほころんでいた表情は陰りを見せ、わずかに眉間にしわが寄った。

 

「なんで・・・。」

 

マガルの言葉は誰に拾われることもなく床に落ちていく。

町はまだ静かに眠っていた。

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