轍
まだ日が昇る前だというのに地面が、空が、町を明るくしている。
いつもならもう少し暗い気分のはずなのに、景色の白さに引っ張られたからか今日は気分がいい。
町が白で塗りつぶされるというよりも、白いキャンバスに少しだけ町が描かれているような、知らない場所に来たような感覚だ。
誰かがつけた轍に沿ってハンドルを切ると、車が雪溜を避けて進んでいく。
前にここを通った人はどういう人なんだろう。
交差点に差し掛かると、車は行儀よく車線を守って右へ曲がっていく。
知らない誰かを追う道はなんだかとても心が落ち着く。
無心で車を進めていると段々と轍が増えて、そのうちにパタリと途絶えて大通りに辿り着いた。
ここまで来ると雪はもうほとんど溶けていて、おまけにいつの間にか色んな音が聞こえてくる。
轍のなくなった道でハンドルを切ると、僕は自分の力でキャンバスに色を加えた。
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