ちょっと奥さん、聞いてよ

日々の出来事を小説風に記録。社会の端っこで息をひそめる人間の物語。ここだけは自分が主役。

光る暗闇

午前6時30分。

空はまだ暗く、風の音だけが響いていた。

昨日の予報では、今日は大寒波の影響で大雪になると報道されていたが、道路は少し湿っている程度だった。

しかしそれでも寒い。家を出ると風が顔に打ち付け、思わず「ウッ」と小さな呻き声が漏れた。

鼻の奥にツンとした痛みが込み上げる。

 

冷たい空気を口一杯にため込み、急いで車に向けて走り出す。

荷物の多さに苦戦しながらも何とか扉を開けて乗り込むと、外で貯めた空気を一気に吐き出し、大きく深呼吸をする。

昔からの癖で何かに耐えるときにはつい息を止めてしまう。

 

やる気のない私とは対照的に車はいつも通りのエンジン音を響かせる。

この時間は行き交う車が少なく、渋滞など気にせずすいすいと進めるので気持ちがいい。

たまにすれ違う車には妙なシンパシーを感じ、無意識に心の中で「頑張れ」と応援していた。

同じ時間に通勤しているというたった一つの共通点だけで、きっとこの人もつらい思いをしながら働いているんだ、毎日苦手なことに立ち向かっているんだと、勝手に自分が親しみやすいイメージを作り出し、じゃあ自分も頑張ろうとハンドルを握る手に力が入る。

 

会社に近づくにつれて空が白んできて、水たまりがきらきらと光始めてきた。

一日の中で何度も幸福と不幸を繰り返しているが、今日は幸福が最初に来たようだ。

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